Column

愛する人や愛犬に囲まれてフランス料理を食べてみよう

Text & photo by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2018.07.09

私は普段全く地上波のテレビ番組を観ない。NHKをたまに、という程度だが、仕事絡みの民放の番組をチェックするついでにスポンサーCMを観て驚いたことがある。友だちのフランス人シェフが女優の相手役として出演していたからだ。2010年のこと。8年前だ。

更に遡ること15年程前、広告制作の仕事でそのシェフにインタビューする機会があり、当時取引していた広告代理店の辣腕美女エグゼクティブアカウントと共に、シェフの勤め先の東京山の手のレストランに行った事等を思い出す。アルマニャックを飲みながら葉巻をくゆらせるシェフは、俳優にもなれそうな二枚目であった。

シェフはパリで1963年に生まれ、所謂新人類世代に当たるため団塊世代の頑固な料理人に比べ物腰が優しく、取っ付き易かった。ロックが好きで、フジロックフェスティバルもよく観に行く、と言ってたかな。

16歳からカジュアルなビストロで修行を始めて、その後欧米の数々のレストラン修行を経て、1988年4月に関西に開店した高級フレンチレストランの料理長として初来日した。そして1年間勤めた後、フランスへ帰国し数々の名門レストランでも料理長を務め、その後再び来日し、東京のラグジュアリーホテルのフレンチレストランに数年間勤めた後、90年代末に自身のプロデュースのレストランを手がけ、現在は気軽なビストロを営んでいる。

彼を一躍有名にしたのは1996年にゲスト出演したフジテレビの料理対決番組で、何と権威のあるレギュラーの料理人に勝ってしまった。その頃同時に全日本フランス人シェフ会会長に就任。1998年にはフランス政府よりメリット・アゴリコール賞を受賞している偉い人だが、インタビュー時は実に気さくな人だった。件の民放のCMの笑顔も天性のものだと思う。

幾つか答えてくれた印象的な事を思い浮かべてみると…

「私の母国、フランスは最近アジアブーム一色。ファッション性ももちろんあるけど、健康的なライト・テイストが食のトレンドでもあるんだ。ハイセンスな人達が、自分のファッションの一部として日本食を好んでいるんだよ」

フランスでは今も和食やSUSHI(寿司)が大人気だ。最初は彼が語るようにファッション的な食べ物として、一部のお洒落ピープルの間で流行っていたものが、現在では一般市民にもドンドン広まっている。私の別の知り合いの日本料理人もパリに割烹を出店し、クラブ好きな若者の圧倒的な支持まで得ているから不思議なものだ。

ヨーロッパの真ん中に位置するフランスは、周囲の国々から様々な影響を受けながら、独自の文化を熟成して来た。自分達のセンスや生活基盤はしっかりと守りながら、他文化の良いところだけを上手に取り入れるというバランス感覚。それは、フランス文化が世界中を魅了するまでの存在に成長した、1つの要因では無かろうか等と考えてみる。幾つもの国境を飛び越え、遥か遠いASIAのカルチャーも、フランス人のライフスタイルに溶け込んでいくような時代になった。今後どんな風に、日本文化はフランス流にアレンジされてしまうのか…。

「私の料理は一切日本人向けにアレンジをしないから、お客さんはやはりフランス人が多いよ。後は、東京に住んでいるアメリカ人も多い。料理対決番組に出演後は、TVを見た日本人のお客さんも多かったけど。最近は、純粋にフレンチが好きな日本人がほとんどなんだ」

彼は各テーブルを回って、お客さんと言葉を交わす事が多い。日本人には日本語で、アメリカ人には英語で、そしてもちろんフランス人にはフランス語で。シェフでありながら、ここまで積極的に客とコミュニケーションを図る人は当時は珍しかった。日本人客は構われたがりのセレブ、お金持ちのマダムのファンが多かったような気がする。

カジュアルスタイルでありながらも品のあるゆとりの空間を提唱していて、現在彼がオーナーであるレストランはそれを体現しているお店だと思う。客層も変わった。

「お客さんにリラックスしてもらいながら、私の料理を食べてもらいたいと思っている。結局、お客さんに満足をしてもらうのが一番大事なんだから。今まで日本ではフランス料理=肩肘を張っていただく料理というイメージがあった。だけど、それは日本人が勝手につくりあげたフランス料理のイメージだ」とシェフは言っていた。

だから「本物のフランス料理を日本に」と考えた時に、本物のテイストに加えて、今まで日本には無かったカジュアルなフレンチ・スタイルを営む事にしたそうだ。

フレンチポップスをBGMにし、お客様が短パンにスニーカーのようなカジュアルファッションで来店しても、大きな声で話しても、子供を連れて来てもOKというカジュアル志向を徹底した。更に驚きなのは、愛犬の連れ込みもOKというところ。動物愛護精神が旺盛なヨーロッパでは普通の事でも、日本で、しかも一流シェフのお店で、愛犬同伴OKなんてびっくりしてしまった。

シェフが追求しているカジュアル・フレンチには、"ただ単純にリラックスした空間でフランス料理を味わう"以上の意味がこめられている。心にも体にもエネルギーを与えてくれる「アリマンタシヨン」が大事なんだそうだ。

「アリマンタシヨン(仏語で食するという意味)というのは、人間の生命につながる大切な事。私は肉体面だけで無く、精神面でも充実感を与える事の重要性を常に感じている。料理人の仕事は人の役に立つと思う…」といつに無く真剣な顔をしていたなぁと更に思い出す。

どんなに素晴らしいお料理でも、家族や大好きな友人、自分が愛するもの達と一緒にくつろぎ、笑いながら食事をする事が出来なかったら、心の空腹感は満たされないものかも知れない。不景気の最中の忙しい毎日を送る都会人なら、自棄になって悪態をついては他人を不愉快にさせるよりは、愛する人達に囲まれて、ゆとりある食事を楽しむ行為こそが生気を高め、人生を意義あるものにするのではないかと、私は今でも思う。

明るく楽しく遊び気分を大切にする心を思い出した途端、いろいろ忘れていた気持ちが蘇る。そうだ、今度愛犬を連れてシェフのレストランに行ってみよう。

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